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広島高等裁判所岡山支部 昭和30年(ネ)47号 判決 1955年12月26日

控訴人 原告 株式会社小田商店

訴訟代理人 梅原貞治郎 外一名

被控訴人 被告 江口専吉

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金三十万円及び之に対する昭和三十年八月二十三日以降完済まで年六分の割合に依る金員の支払をせよ。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

この判決は金十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴会社に対し金三十万円及び之に対する昭和二十八年十二月二十七日以降完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の提出、認否、援用は、控訴代理人において、本件為替手形の振出日は昭和二十七年二月二十日である、と述べ、甲第二号証を提出し、当審で証人宮本進、貴田楢蔵、控訴会社代表者小田栄吉本人の尋問を求め、被控訴代理人において、甲第二号証の成立を認める、と述べたほか原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。

理由

控訴会社が昭和二十七年二月頃訴外藪内源太郎から、金額三十万円、満期同年四月三十日、支払地岡山県吉備郡総社町、支払場所株式会社中国銀行総社支店、振出地西宮市、受取人、振出人、支払人、振出日とも白地で且被控訴人の引受の為替手形一通を受取つた後、控訴会社代表者小田栄吉において受取人及び振出人を同会社、支払人を被控訴人と補充し本訴提起後振出日を同年二月二十日と補充したことは当事者間に争がない。

そこで被控訴人の抗弁につき審究するに、右抗弁は本件手形が白地手形であつた当時の所持人である訴外藪内源太郎に対するものであるところ、同人は本件手形の当事者として手形上には現れていない。従つて形式的には手形法第十七条の前者にあたらないけれども、白地手形が白地のままで流通することを考えると、これを白地手形の裏書人と同様にみて、その善意取得者の保護を図ることはその円満な流通を助長することとなり手形法第十条を設けた趣旨にもそうものというべきであるから、右訴外人は実質上手形の裏書人と同様の立場にあるものと解するのを相当とする。前記証人貴田楢蔵、当審証人宮本進(一部)の各証言、原審及び当審における控訴会社代表者小田栄吉本人尋問の結果の一部を綜合すると、訴外藪内源太郎は昭和二十六年頃以降控訴人とスカッチの取引を続け、昭和二十七年二月頃、合計約百二十万円の買受代金債務を負担するに至つたが、その頃同訴外人は経営不振に陥り、右債務の支払も思うにまかせない状態であつたところ、たまたま右債務の中に同訴外人振出にかかる金額五十一万円の約束手形に因る債務があつて、同年同月八日内金二十万円を支払つたものの、残額三十一万円の支払の為に振出した約束手形が不渡りとなり、控訴会社からは厳しい督促が来て、爾後同訴外人振出の手形を受取らぬから、同訴外人の得意先で支払確実な手形を交付するようにと要望され、同訴外人としても右三十一万円の約束手形の満期たる同年同月二十四日にはその金額を支払う見込もなかつたため、同訴外人は右要望に応ずべく、同年同月十一日、被控訴人から、その頃同訴外人において被控訴人に代金は現品引渡と引換に支払う約旨の下に売渡す契約をしたネル百反、代金三十万円、の代金支払を確保する目的の下に前示白地為替手形一通を受取り、翌十二日、同訴外人の店員貴田楢蔵にこの手形を控訴会社に持参せしめ、貴田は控訴会社代表者小田栄吉に対し、右手形が同訴外人において前記の趣旨で受取つたものであり、右手形の満期までには必ず現品を被控訴人に引渡して本件手形金が控訴会社に入手できるようにするといつて、その受領方を懇請したので、右小田において未だ右訴外人には手持商品もあることとてこの程度の履行はできるものと信じ本件手形を受領したことを認め得る。右認定に反する当審証人宮本進の証言、原審及び当審における控訴会社代表者小田栄吉本人尋問の結果の一部は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして原審及び当審証人貴田楢蔵の証言に依ると、訴外藪内源太郎商店は遂に昭和二十七年三月中旬その経営工場を閉鎖して、被控訴人に対し前示ネルの引渡をしなかつたことを肯認し得る。

されば控訴会社代表者小田栄吉は本件為替手形につき訴外藪内源太郎が被控訴人に品物を引渡さない間は被控訴人においてその支払をするに及ばない事情を知つてその所持人となつたものであるが、それにしても本件手形の満期には右訴外人が被控訴人にネル三十反を引渡さないかも知れないことを予知しながら敢てこれを受取つたのではなくて、満期までには右訴外人が被控訴人に履行を了し従つて満期には滞りなく本件手形金の支払が受けられるものと思つて右訴外人からその交付を受けたものであつて、当時の事情からしてもそれは無理からぬものであつたことは如上認定のとおりである。従つて、控訴人は本件手形の原因関係の性質を知つてその交付を受けたにすぎないものであつて、手形法第十七条但書所定の害意はなかつたものと解するのを相当とするから、被控訴人の抗弁は採用しない。

よつて被控訴人は本件手形金支払の義務あるところ、本件手形の振出日が補充せられ被控訴人に呈示されたのは昭和三十年八月二十二日の当審口頭弁論期日であるから、被控訴人はその翌日から遅滞の責に任ずべきである。従つて控訴人の本訴請求は金三十万円とこれに対する昭和三十年八月二十三日以降完済にいたるまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容しその余は失当としてこれを棄却すべきである。

以上の理由により民事訴訟法第三百九十六条、第九十六条、第九十二条、第百九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 高橋雄一 裁判官 三好昇)

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